ビニー・カリウタ

 「あ〜もう完全に煮詰まってきた。もう正直わかんなくなってきたよ〜」と煮詰まったので、もうこの状態で仮歌録ってから考えようと腹に決めた。そして16時前、僕は指定の場所にノート・パソコンやらなんやら持って現れた。しかし、ふたを開けてみると卓もあるしマイクもある。ありがたい事にオペレーターまでいるというのは嬉しい。そしてちょっと遅れて、例の作曲家嬢が現れた。軽く挨拶して僕はオペレーターとデータの移し替えなどしていると、後ろで彼女は今回製作を担当してくれる会社の人になにやら近況報告「**の曲をいつまでに作らなくちゃいけなくて〜」と幾つか名前を出していたが、どれもビッグネーム。今結構発注が殺到しているみたいでちょっと気の毒な感じだ。

 多少バカ話、雑談等してレコーディングの段取りについて話したりする。全楽器生で録る事にした事に対して彼女は「え? なんでそんなに生にこだわるんですか? こういう曲って普通打ち込みじゃないんですか? 」と痛いところを突いて来た。まさか初対面の彼女に「僕は打ち込みが下手なんです〜!」とも言えないので「生は良いよう。まあ今回は素人高校生が歌うから、生楽器の質感でごまかしてしまおうというのもあるからね」とか、わけのわからない答え。「ふ〜ん」といぶかしげに答えた彼女だが、来るミュージシャンでドラムの人が彼女の好きなグループのドラムをやっているのと、ギターの人が彼女の事務所の先輩という事でそれなりに楽しみになってきたみたいだった。

 そして仮歌録りへと進んだが、歌を聴いてビックリ。歌うまいし、というか凄く歌うまいというよりもなんかそういうので言い切れない良さがある。声に特徴があるし、独特なグルーヴもあって正直良いのいで、これはきっと中嶋美嘉などに曲を作っていた川口大輔君みたいに本人もきっと近い将来デビューするであろう。ならば本人の世界観にゆだねてしまえ〜と思ってきたので、ディレクションもよっぽど「良かったのにもう1回やる」という感じでない限りは本人がもう1回やりたいと言ったらやらせる事にしてみた。最初のほうこそ、方針などトークバックで話し合いながら進めたが、中盤からは「聴く? 」「聴く。」「じゃあ聴こう! 」か「聴く? 」「もう1回やります。」「じゃあもう1発やろう! 」という2種類の会話しかしなかったような気がする。そうやってだんだん興が乗って来た頃。2番のA~Bメロも良い感じで録れたので「じゃあ続けてサビ行こうか!?」と元気よく僕が言うと「あれ? 貼らないんですか? 」と言われてしまった(今やコンピューターベースのレコーディングなので、一番のサビの波形をそのまま2番の同じ箇所にコピー・アンド・ペーストするなどものの10秒である)。見るとサビはどこも歌詞全く同じ。「ガ〜ン。アナログ世代の石器人なのがバレてしまった〜」と1000ポイントのダメージを受けつつも(アナログ・テープの頃は当然歌うしかない。テンポが一緒ならどこかのレコーダーかサンプラーか何かによけて、叩くという手法もあったが、それなりに時間もかかるので歌ってしまった方が早い場合も多々あった)。「ごめんね〜。古い人だからなんか2番は2番のニュアンスがあるかなとか思ってしまって。歌ってくれる? 」と言うと快く2つ返事で歌ってくれたのだが偶然最後の歌詞を微妙に間違えた。しかし! それが良かった! 「今間違えた歌詞けっこう良いと思うんだけど、2番はこれにしない? 」と言うと本人もそう思ったようで「そうしましょう」とのこと。「ほら〜、やっぱり歌って良かったじゃん」とか言うとこれで一気にほぐれたのかその後のサビもしっかり3番用の歌詞にちょこっと変えて歌ってくれて、それもまた良くて仮歌録りは上昇トレンドのまま終了した。

 その後またまた雑談していると僕が普段何をやっているのかと聞いてくる彼女。よっぽど「植木に水をやったり、風呂を掃除したりしている」と言いそうになったが「大槻ケンヂの特撮のサポート・ベースとかやっているよ」というと「ああ〜、そういう雰囲気ありますよね〜」となぜだか納得。「パンクっぽい雰囲気があるってこと!?」と聞くとどうやらそうであるらしい。その後は製作会社の担当女史も交え和やかな雑談の中仮歌録りは終了。参加ミュージシャンに釣られて(笑)締め切り直前の彼女も楽器録りの日は遊びに来るらしい。これはカッコイイところ見せなくてはとちょっとオジサマ勘違いな気合いを入れながら、僕はその場を後にした。

 家に帰って改めて借り歌入りのデモを聞いた僕。仮歌が入ったおかげで何をどうすれば良いのか全てが明確に見えて来た。ギターは思っていたのとは違ったので録音し直し。「なんか楽器のソロ」と思ってあけておいた場所も、これだ! という楽器を入れて音入れは終わった。で、後は落としなのだが、今日彼女の要素が入ってアレンジが生き返ったことで「他人の手が入る事の重要性」を再認識した僕は、近所に住む飲み助エンジニアに落としをお願い出来るか打診してみた。すると明日はオフ。ありがたい事に昼間うちに来てくれて落としてくれるらしい。まあその後お酒を奢る事になってはいるのだが「別の人の要素」というものを入れてくれる代価としては安すぎるぐらいだ。そうだ、今度彼女に「なんでそんなに生にこだわるんですか〜!?」と聞かれたら「色々な人の思いが入ると曲が育つんだよ〜! 」と言う事にしよう。「ああ〜、早くレコーディングの日にならないかな〜」と、昨日までの僕とは裏腹に超前向きな自分がいるのがおかしくてたまらないのだが…。

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Commented by ぶよ at 2005-08-20 06:24 x
(^^)またダジャレが…(ナイス!(^^*))リョウさんの、いい言葉だなって思いました♪色々な人の思いで曲が育つ・・人間みたいですね(^^)友人の言葉で、、「愛は”非効率的”で、欲望は”生産的”である」というのがあって・・遠回りでスローな私の事を、じれったく思いながら、「でもそれは”愛”ゆえに、なんだよね」と言ってくれた彼女に、とても感激だったので・・リョウさんにも捧げますネ(^^)。生楽器や、生歌や、アナログや、古い楽器や、古い機材が好きだったり…時に非合理的かもしれないけど、そういうところから、リョウさんの、音楽への綿いっぱいの愛を、行間に、いつも、すごく・・感じるのです(^^)そして、それが、ファンは、とても、うれしいのです(^^*)そして、リョウさんは古いだけじゃなくてちゃんと新しい感覚も持っていらっしゃるから、やっぱりすごいなあって思います♪リョウさんたちの思いが込められたその曲を、皆が好きになってくれるといいですネ!(^^)ノ゙ あとひとがんばり、録音もがんばって下さいネ♪
Commented by ricken4001s at 2005-08-20 11:22
本当は打ち込みもテクノも大好きです! でも、良い機材も良い音源もない…。なのでつい二の足踏むのですが、本番での打ち込みの導入、WHITE FANG時代からやっていたのだから(古い! )またやってみようと思います。ではでは録音頑張りますよ!
Commented by 優美 at 2005-08-20 12:10 x
最近はパソコンで音程なおしたり楽器を打ち込んだり、竜さんも書いているようにコピペできてしまいますからね。
でもそれだけじゃ寂しい気がするのです。。。
人が演奏した音は‘生物’だから、録音してもそれが生きているというか..やっぱりそっちの方が好きなのです^^
こうして経過を読んでいると、私達が楽しみにしている新曲ってたくさんの時間と人の手を加えられてできてるんだな~と改めて思いました。
まさに‘色々な人の思いが入ると曲が育つんだよ〜!’ですね^^
その思いがたくさんつまった曲..きっと素晴らしいものになるのでしょうね^^
竜さん、頑張って下さいネ^^*
Commented at 2005-08-20 12:14 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ぶよ at 2005-08-21 10:27 x
(^^)リョウさん音入れ完了おつかれさま~!♪(^^)ぱちぱちぱち!私もパソコンのこちらがわでお祝い酒しましたよ♪ 焼酎じゃなくて洋酒ですけど・・(^^)♪(な~んて、飲める口実にすぐ便乗しちゃうんですから・・ごめん(^^☆))
 お久しぶりに解放感を満喫してゆっくり飲めたのかな(^^)、おつかれさまです(^^)♪ リョウさんの打ち込み、聴きたいなあ~ 打ち込みも、作り手の入魂が濃ゆ~い場合は、実に人間くさい音を匂わせるような気がします(^^)これも愛ですねえ・・。リョウさんのプログレ魂、ひさしぶりに聴きたいです♪(^^*)オタクモードなリョウさんって、かなり魅力的・・(^^)ですよ♪!
Commented by ricken4001s at 2005-08-21 17:16
皆様、ご指摘ありがとうございました。「色々な人の思いが入るとこのブログも育つ」ので、引き続きご指導ご鞭撻のほう、よろしくお願いします! ではでは!
by ricken4001s | 2005-08-19 23:53 | 音楽 | Comments(6)

現 デュオたかはし(髙橋竜、タカハシヒョウリ)、竜理長(髙橋竜、三柴理、長谷川浩二)、NUOVO IMMIGRATO。大槻ケンヂ・ミステリ文庫(オケミス)。陣内大蔵サポート。CMナレーション、「渡り廊下走り隊」などへの楽曲提供など幅広く活動するベーシスト/ミュージシャン髙橋竜奮闘記。ex-SUZY CREAM CHEESE、ex-特撮、ダイアモンド☆ユカイ等サポート。

by ricken4001s